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カメラマンから編集者に移行したばかり、シロート同然だった私を一人前のエディターに育てて
くれ、この雑誌の続行を最後まで主張してくれたA氏にはむしろ
感謝の気持ちでいっぱいだった。
3ヶ月後、その出版社に迎えられた者、フリーとして独立した者など、それぞれのスタッフは次の
ステージに旅立って行った。
アワーハウスを設立して10年、その雑誌をはじめ、写真
集、単行本、ムック本と様々な仕事を企画、制作してきた。
それは頭の中に閃いたアイデアから「本」という物(商品)
を作るという、言ってみれば「無」から何かを作り出すとい
う経験を与えられたわけで、これは私にとって貴重な財産に
なったと思う。
その財産をこれからいったいどう使うのか、社員のことや
事務所整理に追われ自分の今後のことを考えるのがとうとう
一番最後になってしまった。
ただ漠然と次は大手から仕事を受けるのではなく、自分の

オリジナルのもので
したいという気持ちが次第に強くなっていた。
事務所の引き渡しを済ませたその日の夕食後、私は妻にこう切り出した。
「俺、ラーメン屋になる」